まずは、私のプロフィールからお話しさせていただきますね。
小児科医としてスタートした私は、35年前、5年間アメリカに留学して、ウイスコンシン大学2年、ハーバード大学小児科で3年、心臓病理学や分子細胞生物学の研究をしながら、アメリカの先端医療を学ぶ機会にも恵まれました。
特に当時、日本では珍しかった遺伝子解析が盛んに行われ始めて、遺伝子変異の見つかった人たちが、遺伝子治療にトライなさっていました。でも悲しいことに、その方達が時々遺伝子差別を受けて苦しんでいる、って話も耳にしました。
遺伝子解析がやがてきっと日本にも導入される。患者さんやそのご家族にとって、どのような医療が望ましいんだろう? 考えた私は、日本に帰ったらいち早く、患者さんの気持ちに寄りそったカウンセリングと、しっかりとしたアフターケアをともなった遺伝子解析体制をスタートさせたい!と強く思いました。
帰国後、大学に戻って、遺伝子解析の研究と並行して、遺伝子の異常による先天性の病気をもつ子どもさんの遺伝子解析と、そのご家族へのカウンセリングを始めました。
対象は心臓血管病の子供が中心でしたが、1個の遺伝子だけでなく、30個もの遺伝子に異常が見つかるようなケースもありました。不思議なのは、同じレベルの遺伝子異常でも、症状の重い方もいれば、比較的普通に日常生活が送れるお子さんもいます。
そうした経験から、病気の発症とその後の経過には環境が大きく左右しているんじゃないか?って考え始めました。
また、そうしたお子さんとそのご家族には、糖や脂質の代謝異常が極めて多くて、これらのケースにおいても、家族ぐるみで食事療法や運動療法をベースに生活習慣を変えていくことで、病気のさらなる悪化を抑えることができたので、ひいては発症を防ぐ可能性も充分にあると思いました。
そんなわけで、たいへんなハンデイキャップをもっている子供たちの病気でさえ進行をコントロールできるということは他の患者さんの病気でも進行を遅くしたり予防できると思いました。
こうした課題を科学的にすすめようという考え方が浸透してきてこれを「統合医科学」と呼ぶようにいたしました。